[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
9巻買ったー!! でも読めない!多分きっと恐らく、来月にならないと読む時間がない。 ら、来月も危ういか・・・も・・・? 悔しいから挿絵だけパラ見しました。 実にけしからんな絵が沢山でした。 もっとやれ!!
「これ、受け取って下さい」 差し出された白い箱は容易に手作りだと窺えた。
ピンクや赤、白に彩られた街を行き交う女子達は心なしか足早に色とりどりの袋を持って闊歩する。 うきうきして見えるのはきっと今日がバレンタインデーだから。 お菓子業界の策略なんて百も承知だが、このイベントに乗っからない手はないと女子はスイーツを吟味する。 臨也はそんな人々をカフェの一席で微笑ましく(?)眺めていた。 そこに臨也と顔見知りの少女がやって来ての冒頭の台詞だ。 今日何個目か分からないプレゼントだが、一人で来る子は初めてだった。 皆2、3人で来て、それぞれ違うパッケージのものを手渡し、臨也が礼を言うと嬉しそうに去っていく子達ばかりだったから。 「ありがとう、嬉しいよ。手作りだね」 「はい。臨也さんにそう言って貰えると嬉しいです」 少女は微笑む。その陰のある笑みで彼女の心がどこか病んでいる事が分かった。 臨也の周りにはそう言う類の子が集まる。 「本命君に悪いな」 からかう臨也に少女は事も無げに言った。 「私、臨也さんを愛してるから」
あの子は俺の言葉の意味を理解している。 臨也はカップに口を付けながら思う。 突然の告白に、俺も好きだよと笑顔で返した臨也に彼女は知ってますと微笑んで去っていった。 この場合、知ってますと言うのはおかしい。 彼女は個ではなく、群として彼女を好きと言った臨也の真意を瞬時に理解した。 そして、それで十分だと言うのだ。 賢い子は好きだよ。 臨也は呟いて空になったカップを手に席を立つ。 「臨也さんってモテるんですね」 背後から掛けられた声で誰か分かった。笑顔で振り向く。 「やあ、帝人くん」 制服姿の帝人が空のカップを持って立っていた。 連れだってカフェを出る。 「モテるのとは違うんだよ。色んな意味で慕ってくれてるんだ」 『信者』と言う便利な言葉があるが、敢えて使わない。 帝人にはまだ困ったときにアドバイスをする情報屋として認識しておいて貰った方が動きやすいから。 「所で、帝人君はチョコ貰ったの?えーと、園原杏里ちゃんから」 帝人は目に見えてうろたえた。 「えっ!?な、何言ってるんですか!?別に僕と園原さんはそういう関係じゃ・・・」 「そんな~照れなくたって良いじゃない。いつも一緒にいるんだし」 帝人は俯く。 「いえ、本当に・・・」 臨也はおやっと思う。 園原杏里なら自発的にはあり得ないが、張間美香に言われて帝人にチョコを贈ると思ったのに。 「貰うのを待ってなくても良いんじゃない?今は友チョコとか逆チョコとかあるし、帝人君からあげるってものありでしょ」 「そうですけど・・・」 それっきり帝人は首を垂れてしまった。 臨也はため息をつく。 男からあげるのはやっぱり格好つかないのだろう。 臨也の恋人は男である自分に当然という体で要求するのに。 全く、少しは帝人君を見習え。 コートのポケットに手を突っ込むと、カサリとフィルムが擦れる音がした。 ああ、そうだ。 「じゃあ、杏里ちゃんに貰えなかった帝人君にコレを上げよう。手、出して」 素直に従った帝人の掌には見慣れた小さな包みが置かれた。 「これ・・・チロルチョコ?」 コンビニなどで良く見る安価なチョコは臨也には似合わない気がした。 「どうしたんです、これ?貰ったんですか?」 「違う違う。買ったんだよ」 臨也さんがチロルチョコを買う?意外だ。 帝人が内心思っていると、臨也はにこりと笑う。 「俺からじゃ慰めにもならないけど、バレンタインだからね。これは友チョコって言うのかな」 慰め所か、これって凄い事なんじゃ?臨也さんからチョコだよ、チロルでも! 「いえ、ありがとうございます」 帝人は慌てて礼を言う。 頭を下げた帝人の頭上から声が降って来る。 「よう、竜ヶ峰?」 声の主は静雄だった。 「何で語尾に?がつくんだよ」 呆れ顔で突っ込む臨也の側に静雄。 臨也が側にいるのにキレていない。 それどころか、顎を臨也の頭頂部に乗せている。 更にノミ蟲と毛嫌いしている臨也と普通に会話している。 臨也に頭の上で喋るなと逃げられてた静雄は、今度は肩に腕を置いて煙草を吸っている。 重いと文句を言われているが、やめる気が無い事は一目瞭然だ。 「おい、チョコくれよ」 帝人は耳を疑った。静雄が臨也にチョコを要求している!? しかし、すぐにそう言えば静雄さんは甘い物が好きだったと思い出す。 「ないよ」 「あ?何でねぇんだよ」 「人から貰ったのはあるけど」 「そんなのいらねぇよ。お前が用意しなきゃ意味ねぇだろ」 帝人は考える。 これは裏の裏を読むのか?そのまま鵜呑みにしちゃいけない会話なんだ、きっと。 「だってあげちゃったし」 静雄のこめかみに青筋が立つ。 「誰にやったってんだ」 その人、死んだな。 帝人は合掌した。 臨也の指がすっと伸びる。その先は帝人を指していた。 「え?」 「帝人君にあげたからないよ」 「えええええ!?ちょ、ちょっと待って下さいよ!僕、貰って・・・?」 否定しようと顔の前で振った手が止まる。 まさか。心当たりがあると言えばある。臨也自身が買ったと言ったし。いや、でも、まさか。 「こ、これですか?」 帝人が震える手でチロルチョコを出すと、臨也はそれはもう綺麗な笑顔で頷いた。 静雄は眉間に皺を寄せる。 用意したのが駄菓子屋の定番商品であるのと、それが既に他の者の手に渡ってしまっている事。 どこから怒ろうか決めかねてる様子だ。 「何、その顔。これだって立派なチョコだよ。バリエーション豊富だし、期間限定モノだってあるんだから。メーカーの努力が伺えるから、俺は好きだなこう言うの。それにシズちゃんが来るのが遅いから悪いんだよ。可愛い後輩から奪うなんて大人気ない事しないでよ?」 これを渡す事で丸く収まるなら渡したい。そして、この針、いや出刃包丁の様な視線から逃れたい。 帝人は切実に思った。 「んな事しねぇよ。お前んち行くぞ」 視線を臨也に移した静雄に帝人は胸を撫で下ろした。 肩に腕を回された臨也は不思議そうに静雄を見る。 「何で俺の家?」 「大人しか出来ない事をしようじゃねぇか」 逃げ出そうとする臨也の首根っこを捕まえて、静雄は現れた時と同じように 「じゃあな、えーっと竜ヶ峰?」 と言って去って行った。 帝人は一口大のチョコを溜息と共に咀嚼した。