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2011 08,29 09:55 |
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夏コミ無配冊子(ペーパー的な)の小話です。
こんなのが載ってました。 今度の土曜日花火大会があるでしょ?彼氏と行こうって言ってて。 ざわめく電車の中でもその声ははっきり聞こえた。静雄は、うきうきと話す少女をちらりと見て、再び視線を窓の外に戻す。流れ行く風景は特に興味を引くものではなく、耳は無意識に少女たちの会話を拾った。 人が多いから嫌なんだよね、行きたいって言ったのあんたなんでしょ、浴衣新しいの買おっかな、超楽しみにしてんじゃん。 止まる事なく会話は続き、話題は最近雑誌に取り上げられた飲食店に移った。 (花火大会か・・・・) 週末にあると言う花火大会の事を一駅分思案する。 静雄と臨也はいわゆる恋人同士だ。 いがみ合っていた時と変わらず、アグレッシブな喧嘩もするが、つき合っているのも事実。 しかし、最近、と言うか元々あまりデートらしいデートをしたことがない二人だ。尤も二十代も半ばになると、高校生のように「テーマパークに行こう!」など張り切った目的を持って会う事の方が稀になる。最近は互いの家に行き、そこを出発点として当てもなく街に繰り出すか、一日中引き篭もっているかのどちらかだ。つまり計画性がない。 だからたまには良いかと思った。普通のデートらしく、どこかで待ち合わせて、目的を持って出かけるのも。 電車を降りる頃には、興味がない事には全く食指を動かさない恋人に何と言ったら興味を持たせる事が出来るか、静雄は考えていた。 「今度の土曜、空けとけ」 明確だが意図の読めない物言いに、臨也は表情だけで何で?と問う。 理由を言わなければ頷かない(言っても頷かないかもしれないが)のは分かっていた。 相手の家に着くまでずっと誘い文句を考えいたが、結局浮かばず臨也の顔を見たら先の言葉が出てきた。 考えるだけ無駄だったと思う。 「花火大会があるんだってよ」 「え?シズちゃん花火見たいの?」 臨也は普通に驚いた。 静雄は誘われれば行くが自分から進んで、と言うタイプじゃないと思っていた為、意外だった。 「へぇ。シズちゃんがお祭り好きとは知らなかった。って言うか、良く花火大会があるなんて知ってたね。田中さん辺りから聞いた?」 臨也は携帯を弄りながら言う。 長い付き合いから、静雄がイベント事を自ら調べるタイプでないことは明白だ。 偶々、テレビで見たか、彼の周りに情報提供者がいたか。兎に角、第三者から聞いたのは想像に難くない。 「田中さん的には集金の回収率は良くてもお給料は諸経費が差し引かれて寂しい懐具合の後輩二人を労うつもりで言ったんじゃないの?うわぁ、シズちゃんやロシアっ娘には勿体ない位良い先輩だ。問題児二人も抱えて、そんな気遣いまでしてくれるなんてさぁ。そんな家族団欒的な中に俺がいちゃおかしいでしょ」 臨也の勘違いなのだが、彼はナイナイと首を振る。 静雄に今の仕事を紹介し、手がかかると自覚している二人の後輩と巧く関係を築いている田中トム氏は静雄の尊敬する人であるが、今回はその田中氏は関係ない。行きずりの少女からの情報と言う事はどうでも良いので、黙っておく。 「俺は手前とだから行きてぇんだよ」 と、言えたらどんなに良いだろう。でも言った所でコイツは分かんねぇんだろうなと静雄は思う。 臨也と行く事に意義があるのだと言っても、それは伝わらない自信がある。そんな自信とは早々に決別したいのだが、付き合い出して短くない時が経っているのに一向に改善される気配はない。 臨也は人の感情の機微に聡いくせに、その好意の矛先が自分に向かうと、途端に鈍くなる。 わざとかわしているのかと疑った時期もあったが、本人は至って本気の無自覚。対静雄だと、そのスルー力はマックスをぶっちぎり、シズちゃんって俺の事好きなの?何で?と本気で思っている節がある。 最近、漸く静雄の気持ちを否定しなくなったが、それでは臨也は静雄をどう思っているのか? 少なくとも憎からず想っている、でもこれは何なんだろう?と言う所で考えるのを放棄しているらしい。 これで恋人と言える関係なのだから奇跡だ。 静雄は難儀な恋人を持ったと思うが、不思議と後悔した事はない。不器用な者同士、丁度良いのだと納得している。 そんな自分の感情も分からないお子様は携帯を仕舞うとニコリと笑う。 経験上知っている。これは良くない知らせだ。歪んだ性格の臨也はこう言う時、非常に良い表情をする。 「土曜日は夜まで仕事が入ってる」 だからごめんね? 極上の笑顔で言う事か、このクソノミ蟲が!と言う静雄の不満は抵抗なく声になり、結果、喧嘩が勃発した。 結局、喧嘩と宿泊だけして帰って行った静雄の後姿が臨也の瞼の裏に思い出される。 がっかりした後姿に、そんなに花火大会行きたかったのかと、静雄が聞いたら、お前いい加減にしろよと怒鳴られそうな事を思う。 しかし、仕事なのだから仕方がない。 自由業の情報屋兼FPは顧客に合わせて仕事をする。 土曜日はお得意様である粟楠会幹部との約束が入っていた。表向きの本業以上に収入のある情報屋としてのお仕事は、内容が内容なだけに失敗は出来ない。 臨也は少し考えるとデスクに数台並んでる一台の携帯を取り、電話帳機能から呼び出した番号に通話ボタンを押した。 花火大会のある土曜日の夕方。 予定のない静雄はごろ寝をしていた。 実はセルティに来良学園の三人組と花火大会に行くのだが一緒に行かないかと誘われたが、断った。あくまで臨也と行きたかったからだ。その内友達なくすなと自分自身に苦笑する。 それだけ静雄の中で臨也の存在は大きくなっていると言う事だ。同じ想いを返してくれとは言わない。それでも、少しだけ、十分の一位は返して欲しいと思うのが人間だ。 静雄が溜め息と共にベッドの上で寝返りを打った時、携帯が鳴った。着信音からメールだと分かる。横着に寝転がったまま手を伸ばし携帯を取る。 差出人は臨也、件名は『ご招待』となっていた。 招待って何だ? 本文を見ると、『お疲れ様です。日々頑張っているシズちゃんを本日臨也君の家にご招待します。つきましては18時までにお越し下さい』。 時計を見ると5時を過ぎ長針は12から直角の位置にあった。 仕事だったんじゃねぇのかよ。 無視しても良かったが、気になる。惚れた弱味と言うのはこの先もずっと付きまとうのだろう。 だったら変な意地を張っても良い事はない。静雄は数日前と同様、電車の人となった。 「遅い!早く入って」 静雄を迎えたのはドアを開けると同時の臨也の文句だった。臨也は静雄の手首を掴んで引っ張り入れると彼自身は二階にあるプライベートルームに入って行った。 「手前、勝手に呼び付けといて何だその言い種。来てやっただけでも感謝しろってんだ」 戻って来た臨也に負けじと文句を言う。 「はいはい、アリガト。6時過ぎてるけどね」 持って来た紙袋を漁りながら、全く心の篭もってない謝意を示す。 「お前な、連絡寄越したの5時過ぎだろうが。時間通りに来て欲しいならもっと早く連絡寄越せ」 「あー、ハイハイ。どうでも良いから服、脱いで」 「はぁ?」 いきなり脱げと言われても服を脱ぐのは抱き合う時位だから戸惑う。 「ほら、さっさとする。うん、シズちゃんは髪色が明るいから紺が似合うと思ったけど正解だったね。さっすが俺」 臨也は大判の布の正体、浴衣越しに静雄を見て満足気に頷く。 紺地に白の細いストライプ模様の浴衣は臨也の手と指示によって手早く着付けられる。 腰紐を締める時は臨也が腰に抱きつく形になり、思わず抱き返したら「邪魔」と一蹴された。 静雄の着付けを終えると、臨也は自分用の黒地に絣の浴衣を取り出と、静雄の半分の時間で着付けを終わらせた。 「へぇ、器用なもんだな」 その様子を見ていた静雄は素直に感心する。何でも卆なくこなす臨也だが、こんな事まで出来るとは思わなかった。 「男性用は結構簡単だからシズちゃんも練習すれば出来ると思うよ。それあげるから家帰ったら練習すれば?」 「・・・・ちょっと待て、そう言や何で浴衣なんだ?その前に手前、今日仕事って言ってなかったか?」 今まで臨也のペースだった為、漸く疑問を口にする。 「そうだよ、仕事だったんだよ。優秀な俺が頑張って早めに仕事終わらせて、花火見たいって言うシズちゃんの為に浴衣なんて雰囲気作りまでして、家に招待したんだから、感謝して欲しいのはこっちだよ」 あれ?俺、愛されてる? 臨也の無自覚爆弾発言に静雄は呆然とする。 たまに無意識に静雄を優先するものだから、その行動がもどかしくて、愛おしくなる。 抱き締める事で少しでも気持ちが伝われば良いと手を伸ばすが、その手が触れる前に臨也はするりとすり抜けて、玄関のドアを開け放つ。 「さ、行こうか」 既に7時を回った時間。今から行っても花火は終盤になっているし、良いポイントも人がいっぱいで割り込む隙間もない状態だ。 それなのに行くのかと言う疑問を抱きつつも、静雄は黙って臨也の後に続く。 しかし、臨也は地上に降りるエレベーターには乗らず、その横にある階段を上へ向かう。 「おい、どこ行くんだよ?」 「屋上」 短い返事で臨也は足を止めることなく上へ行く。 段差を上る度に、静雄の目に臨也の白い踝が見え隠れする。静雄の方が背が高い分、旋毛や項を見る機会は多いが、踝は余り注視した事がなかった為、その白さと細さにドキドキした。そんな事言ったら呆れられるから絶対に言わないが。 「とうちゃーく。シズちゃん専用特等席でーす」 屋上には2つの椅子が用意されていた。そして小さいテーブルにはワインクーラー。 中にはアルコール類と水色の懐かしい形の瓶が入っている。 「はい、昔なつかしのラムネ。プラスチックが主流になってるから、ガラス瓶のラムネ取り寄せちゃったよ」 静雄に椅子を勧め、水滴の付いた涼しげな色の瓶を渡す臨也は嬉しそうに話す。ガラス越しに内溶液の冷たさが指に伝わり気持ち良い。 「サンキュ。でもここで花火?」 「うん、もう始まってる。ほら」 臨也が指差す方を見ると、小さい華が濃紺の空に散らばった。 「こっからだと少し小さいけど、人に揉みくちゃにされないし、ゆっくり見れる。シズちゃん、見たかったんでしょ。俺と」 そう言うと臨也はラムネの瓶を傾けた。中のビー玉がカラカラと涼しげな音を立てる。 何だ、伝わってたのか。 臨也の情緒は静雄の知らぬ所で少しずつ改善されているらしい。 静雄は返事をせずにラムネを喉に流し込む。シュワシュワと弾ける刺激が心地良い。 静雄の照れ隠しを見抜いて臨也はこっそり笑う。 「ねぇ、頑張った俺にご褒美ないの?」 「あ?褒美?」 褒美と言われても静雄があげられる物は何もない。困って臨也を見ると艶やかな目で笑っている。 ああ、そんなんで良いのか。いつでも大歓迎だ。 お強請りを察した静雄は、体を乗り出す。 弧を描く唇に自分のそれを落とす。 夜空に華が咲く度に触れ合う唇。 交わす笑み。 ほとんど花火は見ていないけれど。 それでも相手の目に、自分の姿だけが映し出されれば十分だと思える。 離れた場所で一際大きな華が咲いた時、また触れ合うだけのキスをした。 PR |
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